BILSTEIN BSS-kit Yamano Spec


サスキット選び

ユーロRの純正の足廻りは、高次元でバランスされているとオーナーの方は感じておられるでしょう。
街乗りではそこそこ乗り心地もいいし、そうかといってただ柔らかいだけではなく、インプレッションにも書いているようにミニサーキットでも純正にしては非常によく曲がってくれます。
ただ、個人的には少々気になる点もありました。

ユーロRのコンセプトを考えれば見当違いなのかもしれませんが、試乗した時から感じていたことでもあります。
簡単に言えば「もう少し乗り心地は悪くてもいいから、もう少し固めて欲しい」というところでしょうか。

様々なメーカーからユーロR用(SiRやワゴン用の流用もありますが)のサスキットが発売されているようですが、私は「交換するならビルシュタイン」と決めていました。
以前のシビックでKYB、ビルシュタイン、TEINと交換した内、ビルシュタインの印象が最も良かったこともあります。
ただしタイムが速い、というのとは別問題で、街乗りや乗ったフィーリングを含めた、トータルでの印象です。
タイムを出すためにはある程度ハードな足廻りに為らざるを得ませんが、最近はそういう機会も減ったので使用用途の多くを占める街乗りを犠牲にするわけにはいきません(ユーロRに乗られている方の多くはそうでしょうね)。
そこでビルシュタインで操縦性と乗り心地の両立を狙う、という方向を目指すことにしました。

ユーロR用のビルシュタインは、エナペタルからCリングによる車高調整のショックアブソーバー単体と、ネジ式の車高調整スプリング付キットが発売されており、Web上にはありませんが阿部商会からジムカーナの山野哲也選手がセッティングを担当したという、通称山野スペックがリリースされています。
当初考えていたのは、エナペタルCリング+社外のスプリング(RS-R Ti2000)でした(ネジ式スプリング付キットは高価なので)。
が、これでも値引きの問題からかなりの金額になりそうです。
そんな折、通販で有名な平野タイヤのHPを見ていると、なんと「ビルシュタインBSSキット」に「CL1ユーロR」とあるではないですか!
阿部商会の製品ですので値引きもそれなりにあり、これに決めようかと思いましたが、はて?
「BSSキットなんていつ発売開始になったんだろう?」と疑問を覚えました...
ちなみにBSSキットとは、ネジ式車高調整のスプリング付キットで、それほどハードなものではなくS2000などでは評判が良いようです。
疑問もありましたが結局注文することとし、在庫ありということで問い合わせメールから1週間で届きました。
しかし!
とどいた箱には誇らしげに「BILSTEIN Concept by YAMANO Driving Magic」を書いてあるではありませんか!
何かの間違いか、と考えWeb上を探してみましたが情報は無し。そこでふと箱を見ると...
「ANP-YH-BSSCL1」という型番が書いてありました。
ご存知の方も多いと思いますが、「YH」と付くのは山野スペック、「BSS」はBSSキットです。
つまり、「ユーロRのBSSキット=山野スペック」だったわけです。
だったらちゃんと山野スペックの欄に書いておいて〜、と平野タイヤさんには言いたかったのですが、まあこれで行ってみようと思い装着することにしました。


山野スペックの仕様は、F:8k・R:6kのスプリングで、それぞれヘルパースプリングが付いています。
車高調整はネジ式で、アッパーマウントは付属していませんので純正を使用します。
減衰力は固定式で、流行の全長調整式でもありません。しかもスチール製なのでそれなりに重いです。
当初は「山野スペックはハードそうなセッティングだから」と候補には入れていなかったのですが、どうなることやら。

交換作業

装着は2002年1月26日、寒い朝で昼には雨が降りそう、という嫌な天候でした。
雨が降る前に終わらそう、と9:30頃に作業を開始しました。

作業はリアから行いました。まずはリアシートを取り外すことから開始です。
クッションと背もたれの間のボルト4本を外し、まずはクッションを持ち上げて外し、次に背もたれも同様に上にずらすようにして外します。
ショックのトップのナットとアッパーマウントのナットを緩め、ジャッキアップしてタイヤを外し、ショック下部のボルトとスタビライザーリンクのナット、サスのリンクのボルトを外し、先ほどのアッパーマウントのナットを外して車体の後に抜くようにしてショックAssyを取り外します(取付時の画像を参照)。
取り外した後の写真です。サスのリンクとスタビリンクが外れています(サスのリンクは取り外してしまった方が簡単です)。


通常はその後、スプリングコンプレッサーでスプリングを縮め、アッパーマウントを取り外します(今回は手抜きをしてスプリングコンプレッサーを使いませんでした)。当然ながらアッパーマウント付のキットであればスプリングコンプレッサーは不要です。また、いわゆる車高調ではロアシートを最下部まで下げておけば、スプリングコンプレッサー無しでも組み付けが可能です。
ビルシュタインと純正の比較です。シリンダーはかなり太いです。


アッパーマウントを組み付け(このときショックのトップのナットは仮締めにとどめておき、アッパーマウントが回せるようにしておきます)、車体に取り付けてアッパーマウントのナットを仮締めしておきます。


ショック下部のボルトとリンクのボルトを取り付けます。この時点ではまだ仮締めです。


このようにアームにジャッキを掛け、車重が掛かった状態にしておきます。


そして、先ほどのショック下部とリンクのボルトを本締めします。その後スタビリンクを取り付けます。


ロアシートの高さも測っておきましょう。写真はロアシートのロックナット下端からの高さです(出荷状態)。
フロントは54mm、リアは60mmでした。


締め忘れがないかどうか確認し、必要であれば車高を調整してタイヤを付けてジャッキを降ろします。
そして仮締めしておいたアッパーマウントとショックのトップのナットを締め付けます。

これでリアは完成です。わずかながら雨が降ってきましたが、もちろん続行です...

フロントも基本的には同様の手順です。
まずはタイヤを外し、ダンパーロックボルト(ショックの取り付けボルト)を外します。


次にダンパーフォークボルトを外します。
これでダンパーフォークがフリーになるので、前側に抜き取るようにして外しておきます。
外したダンパーフォークは内側が錆びていますので、ワイヤーブラシ等で清掃して潤滑剤をスプレーしておくと取り付けが楽になります。


次にタワーバーのナットを外して、アッパーマウントの3個のナットを緩めます。
写真ではショックのトップのナットがかなり緩んでいますが、実際はちょっと緩めるだけにしておきます。


これでショックAssyを取り外すのですが、スタビライザーが効いていてアームを下げるのに非常に力が必要です。
そこで反対側もジャッキアップしてやると、すんなりとショックAssyを取り外すことができます。
後はリアと同様な手順で作業を進めますが、取り外した2本のボルトを本締めするときは、やはりジャッキで車重が掛かった状態にしなければいけません。

作業が終わったら、締め忘れや作業ミスがないかよく確認しておきます。
ホイールナットも忘れずに。

結局作業完了には3時間少々掛かってしまいました。
途中から雨は本降りになり、終わった頃には体中びしゃ濡れでした。1月の雨は冷たい...

作業のまとめ

リアシートを外す手間などがありますが、ユーロRの足廻り交換は比較的簡単です。
特にホンダのダブルウィッシュボーンの足廻りを交換した経験があれば、スムーズに作業が進むと思われます。
初めて交換する人でも道具さえあればなんとかなる程度のレベルです。助手がいればなおよいですね。

上記の手順について補足しておきます。
・本締めについて
ブッシュの締め付け時にジャッキアップして車重を掛けておくのは、静止状態(1G状態)でブッシュにストレスが掛からないようにするためです。ジャッキアップしたそのままの状態で本締めしてしまうと、タイヤを付けてジャッキを降ろしただけで、すでにブッシュは変形してしまいます。それを防ぐための手順です。

・使用工具
10、12、14、17mmのソケット、メガネレンチ、6角レンチ(ショックトップのナットの締め/緩めに必要)、ジャッキ2台、スプリングコンプレッサー、潤滑剤など。

・締め付けトルク
TEINのアコードワゴン用説明書によると、
 ショックのトップのナット:2.8
 フロントダンパーロックボルト:4.4
 フロントダンパーフォークボルト:6.5
 アッパーマウント取付ナット:3.9
 タワーバー取付ナット:1.7
 リア下部ショック取付ボルト:6.0
 スタビリンク取付ナット:4.0
 リアサスリンク取付ボルト:不明
となっています(単位 kgf・m)。

・レバー比と車高調整
同様にTEINのHPによると、ワゴンではフロント1.5、リア1.1だそうです。
これより車高調整のためにスプリングロアシートを回すとロアシートの移動量の、フロントは1.5倍、リアは1.1倍ほど車高は変化することになります(あくまで理論上は、です。すでにバンプラバーに当たっていたりするともちろんこの限りではありません)。

・慣らしについて
ショックアブソーバーにも慣らしが必要です。交換直後の数百キロは、できるだけ悪路を避けておとなしく走りましょう。また、この間にスプリングの初期のヘタリやスプリングシートとの馴染みによって、車高が少し下がることもあります。お店でアライメントを調整するならこの頃がよいでしょう。また、タイヤを外す機会があれば各部の増し締めをしておくとなおよいでしょう。

・より簡単に作業するために
このBSSキットにはアッパーマウントは付属していませんが、事前に純正のマウントとブッシュを用意して予め組み立てておくと作業が非常に簡単になります。
また、いざオーバーホールなどで純正に戻すときも非常に楽です。
参考までに、必要な部品を書いておきます。
 Fアッパーマウント(51675-S0A-003 ¥1,500×2)、Rアッパーマウント(52675-S0A-003 ¥1,200×2)
 Fマウントブッシュ(51631-SL0-901 ¥500×4)、Rマウントブッシュ(52631-S0A-004 ¥500×4)
 Fスプリングマウント(51686-S0A-003 ¥800×2)、Rスプリングマウント(52686-S84-001 ¥800×2)
 Fマウントブッシュカラー(51728-SB0-004 ¥185×2)、Rマウントブッシュカラー(52728-S0A-004 ¥220×2)
価格は変動しますので、参考価格と思ってください。
およそ¥15,000弱掛かりますが、作業時間と手間は大幅に短縮できます。

Impression

装着してみると、車高はF:4cm、R:2cm程度下がりました。車高は出荷状態のままです。


乗り心地は、ショックの突き上げはあまり感じられませんが、リアのスプリングが比較的固いようで少々跳ねます。
ゴンゴンと衝撃が来ることはあまりありませんが、路面を拾ってポンポン跳ねるような感じです。
純正と比較すると、確実に悪化しているのは間違いありません。個人的には許容範囲内ですが。
ファミリーカーとしては少し厳しいかもしれません。

山道を軽く走ってみると、さすがに純正よりは格段に楽に走れます。ステアリングレスポンスもよいし、気になっていた初期の「ぐらっ」というロールもなくなりました。
もっとも軽く走った程度ではまだまだよくわかりませんので、クローズドなコースで試したいところです。