Suspension
スプリング, Spring
いわゆるバネのことですが、これがないとどうなるでしょうか?
容易に想像できると思いますが、馬車のように路面の凹凸をダイレクトに拾ってしまうことになります。
スプリングにも種類がありますが、一般的なのはコイルスプリングです。
線径、中心径、巻き数、材質など色々要素はありますが、おなじみなのはスプリングレートでしょう。
スプリングレートは単位[ kg/mm ]で、1mm縮めるために何キロの力が必要か、で表されます。
式では
k=Gd4/8nD3 (G:横弾性係数、d=線径、n=有効巻数、D=中心径)
となります。
一見ややこしいのですが、よく見ると...
・線径が太いほど固い(4乗で効く)
・巻数が多いほど柔らかい
・中心径が大きいほど柔らかい(3乗で効く)
ということがわかります。
よく「直巻きスプリングはレートの割に乗り心地がよい」と言われますが、荒巻きスプリングだと縮んでいくうちにバネが密着してしまい、有効巻数が少なくなる(=固くなる)ところを、直巻きの場合は等ピッチのためそれが起こりにくいからなのです。
またGは素材によって変化しますが、これが高い素材だとより少ない巻数で同じレートを確保できます。
そうなるとスプリング自体を軽量にできますし、密着しにくいために乗り心地もよくなるわけです。
ただしこのスプリングレートは、違う車で比較するときには意味を為しません。
前軸重640kgのA車と800kgのB車では、同じ8kg/mmのスプリングでも数値の意味が変わってきます。
これを同列に比較するには固有振動数というものを用います。
式では
f=(1/2π)root(9800・k/W) (k=スプリングレート、W=荷重)
で表し、単位は[ Hz ]です。
これを当てはめてみると、A車で8kg/mmのスプリングを使用した場合は2.5Hz、B車で同じ値にするには10kg/mmのスプリングを使用した場合、となります。
もう一つ、時々耳にすることがあると思いますがレバー比を呼ばれるものがあります。
これはダブルウィッシュボーンやマルチリンク式のサスペンションで起こるのですが、タイヤがバウンドした量とスプリングが縮む量が必ずしも一致するわけではないのです。
下は新型アコードのフロントサスペンションですが、ここでタイヤが50mmバウンドしたとします。
しかしスプリング下端の延長線はロアアームの途中にありますので、スプリングは30mm程度しか縮みません。
簡単に書くと
となり、タイヤのストローク量>スプリングのストローク量、であることがわかります。
この例のようにタイヤのストロークが50mm、スプリングのストロークが30mmだと、8kg/mmのスプリングでも8kg/mmなりの固さとはなりません。
(1/(5/3))2×8=2.88kg/mm
となり、レバー比のないストラット式サスペンションの2.88kg/mm並みの固さとなります。
このレバー比はもちろん車によって異なるわけですが、TEINのHPを見ると車種別に書いてありますので見てみるとよいでしょう。
CF/CLのアコードでは1.5となっていますから、この例だと
(1/1.5)2×8=3.5kg/mm
です。
実測で求めるには、図の(AO/BO)がレバー比となります。
このレバー比は車高調整するときなどに役立ちます。
レバー比1.5ですとネジ部で10mm下げた場合、車高は15mm下がることになります(他の要素でこの通りになるとは限りませんが)。
ショックアブソーバー , Shock-Absorber
スプリングで路面からの衝撃は吸収できますが、それだけだとフワフワした上下振動が残ってしまいます。
そこでショックアブソーバー(ダンパー,damper)で振動を減衰してやることになります。
仕組みはオイルの入った筒の中に狭い通路(オリフィス)があり、そこをオイルが通るときの抵抗で減衰力を作っています。
簡単に言えば水鉄砲や注射器みたいなものでしょうか。
ただしオイルのみでは速いスピードで動いたときに、液体中に気泡が生じてしまうキャビテーションという現象が起こる場合があります。
そのために窒素ガスを封入して、予め圧力をかけています。
構造的には主に単筒高圧式と復筒低圧式があり、前者は安定した減衰力を発生でき放熱性もよいのが特長です(ビルシュタインなど)。
後者は一般に用いられているもので、アタリが柔らかく全長を短くできるなどのメリットがあります。
スペックを表すものとしては、減衰力特性というものがあります。
0.3m/sの時に、伸び側(リバウンド側)が190kgf、縮み側が(バンプ側)が57kgfなどのように表します。
これはショックのストロークするスピード(ピストンスピード)が毎秒0.3mのときの減衰力、という意味でこのピストンスピードによって減衰力は大きく異なります。
一般に0.3m/sというとかなり速い領域であり、実車では段差を乗り越えたときなどがこれに相当します。
コーナーリングの際にロールを始めるときのスピードはもっと遅く、そのために0.1m/s以下のときの減衰力が重要とされています。
この減衰力特性がショックメーカーによって異なる味付けに関わってきます。
マッチング , matching
足回りに限らず、関連したパーツとパーツの間には必ずマッチング(相性といってもいいでしょう)が重要になってきます。
特に足回りはこのマッチングが重要で、いくら高価なスプリングとショックでもスプリングレートや減衰力のマッチングが悪ければ非常に乗りにくい足回りになってしまうでしょう。
スプリングレートと減衰力のマッチングを専門的には減衰比C/Ccという値を用いて表すそうです。
0.3m/s時の減衰力が57kgfだとすると、これを1m/s時の値に変換し
減衰係数C=57/0.3=190kgf/m/s
とします。
そして臨界減衰係数Cc=2root(k×w/g) (k=スプリングレート、w=重量)
との比を減衰係数C/Ccとし、その値で固さを判断していきます。
臨界減衰係数Ccとは、スプリングと減衰の組み合わせで振動的にならない最大の減衰力を指すものです。
つまり、振動さえ起こらない最大の減衰力に対してどのくらい減衰力があるか、を表すことになります。
一般的には0.1〜0.2程度の値になるようで、ユーロR標準のフロントだと
C/Cc=190/(2×root(5×1000×415/9.8))=190/920=0.21
となっています。
これが大きいほど減衰力が強く収束はいいのですが、反面乗り心地は悪くなります。
理屈はともかく、実際に試してみるとよくわかります。
例えばショックに対してスプリングだけ固くすると、突き上げ感はさほどないものの段差などでの振動が収まらずに、常に跳ねているような感じになります。
逆にショックだけを固くすると、収まりはいいものの大きな段差では突き上げが非常に強くなってしまいます。